珊瑚(さんご)は、3月の誕生石として知られる赤やピンクの宝石です。ただしこの石には、他の誕生石にはない特別な事情がふたつあります。ひとつは、鉱物ではなく生き物の骨格であること。もうひとつは、日本が世界の主要産出国であることです。この記事では、珊瑚という宝石の正体、日本との深い関わり、そして選び方までを、協会会長監修のもと解説します。
| 名称 | 珊瑚(さんご) |
| 英名 | Coral |
| 主な産地 | 日本(高知・鹿児島・沖縄・小笠原)、地中海、ハワイ・ミッドウェー周辺 |
| モース硬度 | 3.5〜4 |
| 誕生石 | 3月 |
| 石言葉 | 長寿・幸福・聡明(伝承による) |
珊瑚とはどんな石か
まず整理しておきたいのは、宝石として扱われる珊瑚が、私たちの多くが思い浮かべるサンゴ礁のサンゴとは別のものだということです。
サンゴ礁を形づくる造礁サンゴは、熱帯や亜熱帯の浅い海に分布します。一方、宝石になる珊瑚は太陽光がほとんど届かない深い海で、長い年月をかけて成長します。どちらも刺胞動物門花虫綱に属し、炭酸カルシウムを主成分とする骨格を持つ生き物ですが、造礁サンゴの骨格が隙間のある塊であるのに対し、宝石珊瑚は密に詰まった樹木状の骨格を作ります。
この「密に詰まっている」という性質が、宝石としての価値を決めています。緻密で硬く、磨けば深い艶が出る。宝石珊瑚の骨格が鮮やかな赤や桃色をしているのは、微量に含まれる成分によるものです。
ただしモース硬度は3.5から4と、宝石のなかでは柔らかい部類に入ります。これは石英(硬度7)より明らかに柔らかく、日常のなかで少しずつ傷がついていく硬さです。扱いに配慮が必要な理由は、ここにあります。
そしてもうひとつ、珊瑚が他の宝石と決定的に違うのは、成長がきわめて遅いことです。深海で何十年、何百年という時間をかけて枝を伸ばす。採取すれば、同じ場所に同じものが戻るまでに気の遠くなる年月が必要になります。この事実が、後述する資源管理の議論につながっています。
3月の誕生石としての珊瑚と、日本の選択
珊瑚が3月の誕生石とされているのは、日本独自の判断です。
日本の誕生石は1958年に全国宝石卸商協同組合が制定しました。アメリカの一覧を土台にしながら、日本国内で人気のあった石を追加した形です。このとき加えられたのが、5月の翡翠と、3月の珊瑚でした。2021年12月には63年ぶりの改訂が行われ、3月にはブラッドストーンとアイオライトが追加されて4石になっていますが、珊瑚は当初から3月の座にあります。
なぜ日本は、この2石を選んだのでしょうか。
答えは単純です。どちらも日本で採れる石だったからです。糸魚川の翡翠、そして高知や沖縄の海の珊瑚。輸入に頼るしかない多くの宝石のなかで、この2つだけは日本の大地と海が生み出していました。1958年という時代を考えれば、国内産業への配慮もあったでしょう。けれどそれ以上に、日本人が長く親しんできた石を一覧に入れたかったのだと思います。
翡翠が日本の誕生石に加えられた経緯については翡翠(ジェイド)とは|5月の誕生石の意味・種類・選び方で解説していますが、翡翠と珊瑚は日本の誕生石一覧における兄弟のような存在です。片方は山から、もう片方は海から。
石言葉は「長寿」「幸福」「聡明」など。珊瑚は仏教の七宝のひとつに数えられ、古くから尊ばれてきました。西洋でも、赤い珊瑚は子どもを守る護符として使われた歴史があります。海から採れる赤いものが、東西を問わず生命や守りと結びつけられてきたのは興味深いところです。当メディアでは、こうした意味を科学的な効能ではなく伝承としてお伝えしています。詳しくは「石の効果についての考え方」をご覧ください。
日本と珊瑚|世界の主要産出国として
一般にはあまり知られていませんが、宝石珊瑚は日本が主要産出国である数少ない天然資源のひとつです。
宝石珊瑚の産地は世界でも限られており、海外では地中海、北太平洋西部、ハワイ・ミッドウェー周辺が知られています。国内では高知、鹿児島、沖縄、五島列島、小笠原沖などで珊瑚漁が行われてきました。東京都、高知県、沖縄県などで各都県の許可を受けた漁船により、年間5トン程度が採取されています。
日本近海で採れるアカサンゴ、モモイロサンゴ、シロサンゴは、海外にも輸出されてきました。日本は珊瑚を買う国ではなく、売る国なのです。
そのぶん、資源管理の責任も負っています。2008年以降、アカサンゴ、モモイロサンゴ、シロサンゴ、ミッドサンゴの4種はワシントン条約の附属書Ⅲに掲載され、国際的な取引が規制されています。2008年7月1日以降、国際輸出の際には輸出国管理当局が発行する輸出許可書または原産地証明書などが必要です。2017年以降は、日本の環境省もレッドリストに準絶滅危惧として掲載しています。
規制の背景には、乱獲の歴史があります。地中海をはじめ、さまざまな地域で宝石珊瑚は採りすぎによって資源が枯渇してきました。成長速度が遅く、生態にもまだ多くの謎が残る生き物であるだけに、慎重な扱いが求められます。乱獲防止のための採取方法の規制や禁漁期間は設定されているものの、内容は各都県に委ねられており、国としての統一した規制はないのが現状です。
ここは正直にお伝えしておきたいところです。珊瑚を身につけることは、限りある資源を手にすることでもあります。だからこそ、どこで採れ、どのように流通してきたものかを知って選ぶ意味があります。
選び方と扱いの注意点
購入時に確認したいのは、産地と種類、そして着色の有無です。
種類によって色と価値が異なります。深い赤のアカサンゴ(血赤とも呼ばれます)、淡い桃色のモモイロサンゴ、白いシロサンゴ。日本産のものは原産地証明書や、珊瑚関連の組合が発行する証明書が付く場合があります。日本珊瑚商工協同組合、高知県珊瑚協同組合などが該当します。高額なものを買うときは、証明の有無を確認してください。
注意したいのが染色品です。色の薄い珊瑚を染めて濃く見せたもの、あるいは造礁サンゴなど別の素材を染めて宝石珊瑚のように見せたものが流通することがあります。処理の事実を開示している売り手から、説明に納得して購入するのが確実です。天然石全般の処理については天然石の本物と偽物の見分け方|処理石・染色・ガラスの基礎知識にまとめています。
扱いは、宝石のなかでもとりわけ丁寧さを求められます。モース硬度3.5から4は、爪より少し硬い程度です。他の石と一緒に保管すれば傷がつきますし、硬いものにぶつければ欠けます。単独で、柔らかい布に包んで保管してください。
さらに珊瑚は炭酸カルシウムでできているため、酸に弱い性質があります。汗、化粧品、香水、洗剤。これらが付いたまま放置すると、表面の艶が失われていきます。身につけたあとは柔らかい布で軽く拭く。この習慣が、珊瑚を長持ちさせるいちばんの方法です。超音波洗浄機は使わないでください。
弱く、傷つきやすく、そして何百年もかけて育った石。扱いにくさそのものが、この石の性格なのだと思います。手をかけながら持つ。それが珊瑚との付き合い方です。
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