出雲石(いずもいし)は、島根県松江市の花仙山(かせんざん)一帯で産出する、深い緑色の碧玉(へきぎょく)です。古墳時代、この石から作られた勾玉は出雲の玉作(たまつくり)の名を全国に知らしめました。この記事では、出雲石の特徴と産地、玉作の歴史、出雲大社をはじめとする神々の国との関わり、そして選び方までを、協会会長監修のもと解説します。
| 名称 | 出雲石(イズモイシ)/出雲碧玉・青めのう |
|---|---|
| 英名 | Izumo Jasper |
| 産地 | 島根県松江市玉湯町(花仙山) |
| モース硬度 | 7前後 |
| 石言葉 | 成長・健康・良縁(伝承による) |
| ゆかりの地 | 玉作湯神社(島根県松江市)、出雲大社(島根県出雲市) |
出雲石とはどんな石か
出雲石は、鉱物としては碧玉。石英の細かな結晶が緻密に集まった石で、不純物として含む成分によって色づいたものにあたります。出雲石の場合は深く落ち着いた緑色が特徴で、「出雲碧玉」「青めのう」とも呼ばれてきました。モース硬度は7前後と硬く、緻密な石質のため磨くとしっとりとした艶が出ます。派手な輝きではなく、内側から光るような深い緑。この静かな存在感が、古代から現代まで出雲石が愛されてきた理由です。
碧玉は世界各地で産出する石ですが、色も質感も産地によってまったく異なります。日本国内でも、赤い碧玉として知られる佐渡の赤玉石、加賀の桃色の碧玉など、土地ごとに個性ある碧玉が愛されてきました。そのなかで出雲の碧玉は、緑。古代の人々が勾玉の色として選び続けたのも、この緑でした。出土する古墳時代の勾玉に緑色の石が多いのは、翡翠とともに、この出雲の碧玉が大量に使われたからです。
産地は、松江市玉湯町の花仙山です。全国有数の名湯として知られる玉造温泉の、あの「玉造」という地名こそ、この山の石で玉を作った人々の里であることの証です。地名に刻まれるほど、この土地と石の結びつきは深いのです。なお、花仙山の良質な出雲石は現在ではごくわずかしか採れず、市場に流通する本物の出雲石は年々希少になっています。
出雲石の石言葉と伝承
出雲石の石言葉は「成長」「健康」「良縁」などとされます。木々の葉を思わせる深い緑が、育つもの・実るものの象徴と重ねられてきたのでしょう。
縁結びの神様の国・出雲の石だけに、縁を結ぶ石としての伝承が今も生きていて、玉造温泉の土産物や縁結びのお守りには、この地の石の物語が受け継がれています。
そして出雲石を語るうえで欠かせないのが、勾玉との結びつきです。
そもそも勾玉という形自体が、魂(たま)と玉(たま)の音が通じることから、魂の宿る器、命の象徴と考えられてきました。母の胎内の子の形、月の満ち欠け、動物の牙。勾玉の形の由来には諸説ありますが、いずれにせよ古代の人々にとって玉は装飾品である以上に、祈りの道具でした。当メディアでは、こうした意味や効果を、科学的な効能ではなく、人々が石に託してきた祈りの歴史としてお伝えしています。詳しくは「石の効果についての考え方」をご覧ください。
出雲の玉作と神話|神々の国はなぜ玉の里になったのか
出雲石の歴史の主役は、花仙山の麓で玉を作り続けた玉作の工人たちです。花仙山周辺の遺跡からは、古墳時代を中心に、勾玉や管玉の未成品、砥石、工房の跡が大量に見つかっており、ここが古代日本を代表する玉作の一大産地だったことが分かっています。出雲の玉は各地の有力者へ渡り、やがて宮中の祭祀にも出雲の玉が用いられたと伝えられます。『出雲国風土記』にもこの地の玉作は記され、律令の時代まで続いた出雲の玉作は、まさに国家に玉を納める里でした。
玉作の技術も見事なものでした。硬度7の硬い石を、鉄器の乏しい時代に、砥石と砂と根気で削り、磨き、穴を開ける。ひとつの勾玉が仕上がるまでにどれほどの手間がかかったかを想像すると、玉が貴人への贈り物や祭祀の宝物とされた理由が分かります。玉は、素材の希少さと、注ぎ込まれた時間の両方でできていたのです。
神話の世界でも、出雲と玉の縁は深く語られます。玉作の祖神とされるのが、櫛明玉命(くしあかるだまのみこと)。天岩戸の神話で、岩戸の前に掛けられた玉飾りを作ったと伝えられる神様です。この神を祀るのが、玉造温泉の鎮守・玉作湯神社(たまつくりゆじんじゃ)。境内には触れて祈る「願い石」があり、今も多くの参拝者が石に手を当てて願いを結んでいます。玉を作った神を、玉を作った里で、石に触れて拝む。出雲石の物語がそのまま生きている神社です。
そして出雲といえば、大国主命を祀る出雲大社。大国主命は、翡翠の姫神・奴奈川姫に求婚した神であり、国づくりの神であり、縁結びの神です。玉の里・出雲の中心に、玉を愛した神話の主が鎮まっている。三種の神器のひとつが勾玉であることも思い合わせると、出雲石は、日本人と玉の付き合いの原点に立つ石だといえます。
車も貨幣もない時代に、なぜ出雲がこれほどまでに玉造の里として栄えたのか。神々の国と玉造の歴史、そして現代へ受け継がれる出雲石の全貌は、「出雲と勾玉の物語」をご覧ください。
選び方・見分け方
出雲石を選ぶときに最も大切なのは、産地の確かさです。前述のとおり花仙山の出雲石は現在ほとんど採れないため、市場には海外産の緑色の石や、染色でそれらしい緑に仕上げた石が「出雲石」「出雲型勾玉の石」として並ぶことがあります。海外産の石で作られた勾玉にも工芸品としての価値はありますが、「出雲の石」を求めるなら、産地を明示し、その根拠を説明できる取扱店から求めてください。
また、「めのう」という表記にも触れておきます。出雲では古くから碧玉を「青めのう」と呼び習わしてきたため、出雲石がめのう細工として売られていることがあります。碧玉とめのうは、どちらも石英の仲間で、厳密な区別よりも土地の呼び名が優先されてきた歴史があります。呼び名の違いに惑わされず、産地と石質を確認するのが確実です。
見た目の目安としては、本物の出雲石の緑は、明るく鮮やかというより、深く沈んだ落ち着きのある緑です。不自然に均一で鮮やかな緑、光にかざしたときに色が表面だけに乗っているように見えるものは、染色の可能性を疑ってよいでしょう。とはいえ正確な判別は専門家でも慎重を要しますので、最後は信頼できる売り手を選ぶことに尽きます。
出雲を訪ねる機会があれば、出雲大社への参拝とあわせて、玉造温泉と玉作湯神社、そして周辺の玉作の資料館を巡る一日をおすすめします。工房跡から出土した未完成の勾玉たちは、この石の物語のいちばん確かな語り部です。
古代の工人が磨き、神話が語り、温泉の里が守り継いできた深緑の石。手のひらの出雲石の向こうには、千数百年の玉作の歴史が続いています。
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