モルガナイトの淡いピンクは、多くの場合そのまま地中から出てきた色ではありません。掘り出されたときはオレンジがかったサーモン色で、加熱によってピンクに変えられています。そしてこの処理は、検出できないとされています。2021年に4月の誕生石に加わったこの石を、何を見て選べばいいのか。名前の由来から順に整理します。
| 鉱物名 | 緑柱石(ベリル/Beryl) |
| 和名 | モルガン石 |
| 別名 | ピンクベリル |
| 化学組成 | Be3Al2Si6O18 |
| 結晶系 | 六方晶系 |
| モース硬度 | 7.5〜8 |
| 主な産地 | ブラジル、マダガスカル、ナイジェリア、モザンビーク |
| 色 | ピンク、ローズ、ピーチ、サーモン |
| 誕生石 | 4月(2021年に追加) |
| 名前の由来 | アメリカの銀行家J.P.モルガン |
モルガナイトとは
モルガナイトは、ベリル(緑柱石)という鉱物のうち、ピンクから紫がかったピンク、オレンジがかったピンクのものを指す呼び名です。エメラルドもアクアマリンも、鉱物としては同じベリルです。色を決めているのは、結晶に取り込まれた微量の元素で、モルガナイトの場合はマンガンがその役割を果たしています。
宝石として使える品質のものが最初に見つかったのは、1910年のマダガスカルです。翌1911年、ティファニー社の宝石学者ジョージ・フレデリック・クンツが、アメリカの銀行家であり宝石収集家でもあったJ・P・モルガンの名を取って、この石をモルガナイトと名づけました。和名の「モルガン石」も、そのまま人名です。
宝石の名前は、色や産地や形に由来するものがほとんどです。実在の個人の名を冠したものは多くありません。この石は、その数少ない例のひとつです。
ここで、ひとつ注意しておきたい呼び名があります。エメラルドと同じベリルであることから、モルガナイトを「ピンクエメラルド」と呼ぶ例が見られますが、この呼称は適切ではありません。 アメリカの宝石鑑定機関GIAはこの呼び方を認めておらず、エメラルドとモルガナイトは別の宝石として明確に区別されています。買う側に誤解を与える表現なので、商品名にこの語がある場合は注意してください。
多色性という性質も持っています。結晶の向きによって色の見え方が変わるため、カットの方向次第で同じ石でも印象が変わります。
4月の誕生石としてのモルガナイト
モルガナイトが日本の誕生石に加わったのは、2021年12月のことです。全国宝石卸商協同組合と日本ジュエリー協会が、63年ぶりに誕生石の一覧を改訂しました。このとき4月の追加誕生石として採用されたのが、モルガナイトです。
4月の誕生石といえばダイヤモンドが知られていますが、日本では水晶も古くから4月に定められてきました。詳しくは水晶とは|4月の誕生石の意味・石言葉と本物の見分け方をご覧ください。誕生石の一覧が国や時代によって違うこと、日本独自の事情については、特集誕生石の真実にまとめています。
石言葉としては、愛情、優美、清純などが挙げられます。柔らかなピンク色から連想されるとおり、愛にまつわる意味づけがなされてきた石です。婚約指輪の石として選ばれることも増えました。
ただし、この意味づけの歴史は長くありません。石そのものが見つかったのが1910年、名前がついたのが1911年です。翡翠や水晶のように何千年も語り継がれてきたわけではなく、100年ほどのあいだに形づくられたものだと理解しておくと、情報の受け取り方が変わってきます。
当メディアでは、こうした意味を科学的な効能ではなく伝承としてお伝えしています。詳しくは石の効果についての考え方をご覧ください。
モルガナイトの産地と特徴
産地はブラジル、マダガスカル、ナイジェリア、モザンビークなど。最初の発見地はマダガスカルですが、現在の流通量ではナイジェリア産が大きな割合を占めています。
産地によって色の傾向が変わるのも、この石の特徴です。ブラジル産には、オレンジがかったサーモンピンクのものが多く見られます。この違いが、次に述べる処理の話につながります。
ベリルはペグマタイトのなかで大きく育つ鉱物なので、モルガナイトも比較的大粒のものが手に入ります。色が淡いぶん、ある程度の大きさがないと色が見えてこないという事情もあり、市場では大きめの石が好まれる傾向があります。
原石は六角柱の形に育ちます。ただしモルガナイトの場合、柱が長く伸びるより、平たい板状になることが多いのが特徴です。アクアマリンの細長い柱を思い浮かべると、同じ鉱物とは思えない姿をしています。結晶の形が違うのは、育つ環境の違いによるものです。
モルガナイトの選び方・見分け方
まず、色についての前提を共有させてください。
モルガナイトは、ピンク色を強めるために加熱処理されるのが一般的です。GIAも、この処理は日常的に行われているものだと明記しています。熱を加えると黄色やオレンジの色みが抜け、より純粋なピンクが残る。そして、この処理は検出できないとされています。
放射線の照射によってピンクを引き出す処理も行われています。こちらも、天然に地中で受けた照射なのか人工的なものなのかの区別が難しいとされます。
つまり、市場で見かける美しいピンクの多くは、人の手を経た色だということです。加えて、処理の有無で価値が大きく変わることはないというのが業界の一般的な見方です。
これを欠点として書いているのではありません。知らずに「天然のままのピンク」だと思い込んで買うと、後から知ったときに裏切られた気持ちになる。 だから先にお伝えしています。処理石についての基本は天然石の本物と偽物の見分け方|処理石・染色・ガラスの基礎知識にまとめました。
選び方には二つの方向があります。
ひとつは、評価の高い色を選ぶこと。ピンクから紫がかったピンクで、色が濃く出ているものが希少とされ、価格も上がります。多くの場合これは加熱を経た色です。
もうひとつが、未処理のピーチやサーモンを選ぶという道です。市場での人気はピンクに劣りますが、収集家のなかには、加熱されたピンクよりも手を加えていない桃色の石を評価する人がいます。地中で育ったままの色を持っているのはこちらです。どちらが上ということはありません。何を大切にするかの違いです。
大きさも見てください。 色が淡い石なので、小さいと色が出ません。同じ品質なら、ある程度の大きさがあったほうがこの石らしさが伝わります。逆にいえば、大きくても色が薄すぎると水晶と見分けがつかなくなります。大きさと色の濃さのどちらを取るかは、予算と好みの兼ね合いです。
カットの向きにも触れておきます。 多色性を持つ石なので、結晶のどの向きで切り出すかによって、仕上がりの色が変わります。同じ原石から取った石でも、色が濃く出るものと淡く見えるものがある。カットは職人が色の出方を見て決めているので、店頭で石を回しながら、どの角度で見ても色が保たれるかを確かめてみてください。
似た石との区別も知っておくと安心です。 ローズクォーツ、クンツァイト、ペツォッタイトは、いずれも淡いピンクでモルガナイトに似て見えます。ローズクォーツは石英の仲間で別の鉱物、ペツォッタイトは透明度が低く曇りやひびが多い傾向があります。判断に迷うときは、鑑別書のある商品を選ぶのが確実です。
扱い方について。 硬度7.5から8で、日常的に身につけるジュエリーとして十分な硬さがあります。光に対して色は安定しており、退色しません。ただし熱にさらすことは避けてください。加熱で色が作られている石なので、当然といえば当然です。
洗うときは、ぬるま湯と石鹸で十分です。内部に液体の内包物やひびがなければ超音波洗浄機も使えますが、割れを樹脂で埋めた石がまれにあるため、心配なら手洗いにしてください。手入れと保管の基本は天然石の浄化方法|石を傷めないお手入れと保管の基本を参考にしてください。

