神居古潭石(かむいこたんせき)は、北海道旭川市の神居古潭一帯、石狩川の流れが生んだ変成岩です。磨かなくても樹脂のような艶を放つ独特の石肌から「油石」とも呼ばれ、鑑賞用の自然石を愛でる水石の世界で古くから高く評価されてきました。産地が古来アイヌの聖地であることから、糸魚川翡翠と並ぶ日本を代表する霊石とも称されます。
| 和名 | 神居古潭石(かむいこたんせき) |
| 別名 | 油石 |
| 分類 | 変成岩(蛇紋岩を含む) |
| 産地 | 北海道旭川市・神居古潭/石狩川 |
| 色 | 黒、緑(輝緑・緑泥)、藍など |
| モース硬度 | およそ3〜5.5(構成する岩石により幅がある) |
| 石言葉 | 厄除け(伝承) |
| 特徴 | 磨かずに艶が出る滑らかな石肌、色による7つの呼び分け |
神居古潭石とはどんな石か
神居古潭石は、鉱物の名前ではありません。特定の場所で採れる石につけられた、産地の名前です。
北海道を南北に縦断する変成岩の帯があります。神居古潭変成帯と呼ばれ、およそ1億6000万年前、海洋プレートがマントル付近まで沈み込んだ痕跡を残す、地質学的にきわめて重要な構造帯です。2007年には「神居古潭渓谷の変成岩」が日本の地質百選に選ばれています。
この帯の岩が崩れて転石となり、石狩川に流されます。神居古潭は、川幅が急に狭まって渓谷となる場所。激しい流れに削られ、転がされ、長い時間をかけて磨かれた石が、下流で拾い上げられる。それが神居古潭石です。
つまりこの石は、山で掘り出されたのではなく、川がつくったということになります。
主体となるのは蛇紋岩を含む変成岩ですが、単一の岩石ではありません。色によって輝緑(きりょく)、緑泥(りょくでい)などと呼び分けられ、その多彩さから「神居古潭七石」と称されてきました。黒、深い緑、藍。同じ産地の石でありながら、一つとして同じ表情のものがない。
最大の特徴は、その石肌です。研磨していないのに、樹脂のような光沢がある。これは川の流れが自然に表面を磨き上げた結果で、人の手による艶とは質が違います。磨かれずに磨かれた石。だから「油石」と呼ばれました。
なお、モース硬度については出典により幅があります。蛇紋岩そのものは硬度3程度と柔らかい石ですが、神居古潭石として流通するものは変成を受けて緻密になっており、5前後とされることもあります。構成する岩石によって幅があるというのが正確なところです。
同じように、プレートの沈み込みという地球規模の運動が石を生んだ例として、糸魚川翡翠があります。翡翠がどのように生まれたかは、糸魚川翡翠の誕生とは|5億年前の地球が生んだ奇跡の石で詳しく扱っています。
神居古潭石の石言葉と伝承
神居古潭石の石言葉は「厄除け」とされています。
産地である神居古潭が古くからアイヌの人々にとっての聖地であったことから、この石には神々の力が宿ると伝えられ、新潟県の糸魚川翡翠とともに日本を代表する霊石として語られてきました。
また水石の世界では、その気高い佇まいから「水石の王者」「水石の貴公子」と称されています。美しい石や珍しい石を室内で鑑賞する水石の文化は鎌倉時代末ごろに始まり、明治後期から昭和中期にかけて趣味として広く流行しました。神居古潭石はその中で、常に上位に置かれ続けてきた石です。
台座にのせて、正面を決めて、眺める。石を「使う」のではなく「向き合う」対象として扱う文化の中で評価されてきた石だといえます。
当メディアでは、こうした意味を科学的な効能ではなく伝承としてお伝えしています。詳しくは石の効果についての考え方をご覧ください。
アイヌの聖地・神居古潭に伝わる物語
「神居古潭」という地名は、アイヌ語のカムイ(神)とコタン(集落)に由来し、神の住むところを意味すると伝えられています。
この一帯は、舟が主な移動手段だった時代の最大の難所でした。石狩川がここで急に細くなり、流れが激しくなる。最も深い川底は70メートルに達するといわれます。舟の転覆が繰り返し起きたこの場所を、人々は畏れをもって扱いました。
そこに伝わるのが、次のような物語です。
かつてこの地にニッネカムイという悪しき神が住んでいた。川に大きな岩を投げ込み、行き交う人を溺れさせようとする。見とがめた山の神ヌプリカムイと争いになり、英雄サマイクルが山の神に加勢した。逃げようとしたニッネカムイは川岸の泥に足を取られ、動けなくなったところを討たれた。
神居古潭の岩に見られる無数の丸い穴は「神居古潭おう穴群」と呼ばれ、旭川市の天然記念物に指定されています。地質学的には小石が川床を削ってできた甌穴(ポットホール)ですが、この穴を魔神の足あとや頭に見立てて語り継いできたのが、この土地の物語でした。
一帯からは、縄文時代のストーンサークルや集落跡も見つかっています。石とともにあった人の営みが、この場所には幾重にも重なっている。北海道の石の歴史については、本州の縄文文化との比較として縄文勾玉の形に隠された意味も参考になります。
なお、これらの伝承はアイヌの人々が受け継いできた物語です。当メディアでは物語として敬意をもってご紹介するにとどめ、石の効能と結びつけることはいたしません。
神居古潭石の選び方・見分け方
神居古潭石を選ぶとき、見るべき点は3つあります。
第一に、肌の艶です。 神居古潭石の光沢は川の流れが自然につくったもので、しっとりと落ち着いた深みがあります。人工的にワックスや樹脂で艶を出したものは、光の反射が均一すぎて表面に浮いたように見えます。手に取れるなら、指を滑らせたときの質感を確かめてください。天然の艶は、なめらかでありながら乾いています。
第二に、形です。 水石として評価される石は、川が削り出した自然の造形が鑑賞に堪えるかどうかで判断されます。山の姿を思わせるもの、島影を思わせるもの。切ったり削ったりして形を整えたものは、水石の世界では評価されません。人の手が入っていないことが価値という、他の宝飾用の石とは逆の基準が働きます。
第三に、産地の裏付けです。神居古潭一帯は現在、景勝地として保護されており、渓谷の川沿いで神居古潭石が見つかることはほとんどないと言われています。つまり、いま流通しているものの多くは過去に採集されたもので、新たに大量に出てくる石ではありません。産地証明書の制度がある石ではないため、入手経路を説明できる取扱店を選ぶことが、確認できる範囲での目安になります。
色については、黒、緑、藍のいずれが良いという序列はありません。緑系のうち輝緑と呼ばれるものは入手が難しく市場評価が高いとされますが、実際には中間的な色調のものがほとんどです。好みで選んで差し支えありません。
石が遠くまで運ばれ、価値を認められてきたという点では、縄文時代から続く長い歴史があります。日本列島における石の流通については諏訪の黒曜石と糸魚川翡翠|縄文時代、石が双方向に動いた道をご覧ください。
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神居古潭石をEARTHで見る
一点として同じ表情のない石です。実物の艶と肌をご覧ください。

